オリジナルのテクスチャを生み出すこだわり
ithのコレクションリングには、シンプルで結婚指輪らしい光沢仕上げのものと、クラフト系と呼んでいる、手仕事の温かみのあるマット加工が施された2方向のコレクションがあります。
ithが始まった時から、シンプルとクラフト、どちらかに偏ることなくお客様に自由に、自分たちらしいマリッジリングを選んでもらいたいという想いでデザインを考えていますが、クラフト系のリングデザインは、表面に入れる加工、オリジナルのテクスチャを生み出すことに特にこだわっています。
通常ジュエリーは鏡面仕上げという、ピカピカに磨き上げられた光沢の仕上げにすることが一般的です。結婚指輪も、プラチナの鏡面仕上げされたものをよく見かけると思います。
結婚指輪では、つや消しの仕上げは一般的な加工ではほとんどありませんが、ithでは、結婚指輪を手になじむナチュラルな風合いにしたり、モチーフに意味を込めてお二人のためにお仕立てするため、表面を仕上げるためのテクスチャをいくつも生み出してきました。
お仕着せではなく、二人が気に入って、二人らしく身につけられるように、ずっと身につけていたくなるような愛着を感じてもらえるように、という想いがその原点になっています。
結婚指輪は、二人を結ぶ絆を形で表現したアイテムだと私は思っているからです。
Roccia ロチア
中でも、一番最初に試行錯誤をしながら作ったコレクションのRoccia《ロチア》というリングがあります。
![](https://ith-rings-blog.s3.amazonaws.com/production/uploads/blog_upload/7082/large_911b3c78-37dc-42a0-b3a3-7ee06dcb5320.jpg)
ロチアとは、イタリア語で'岩'という意味があります。岩のように固い二人の絆という意味を込めて、リングの表面にテクスチャを施します。リング表面にわずかな凹凸をつけ、使い込んだような風合いをつけるデザインです。リングの表面に風合いをつける道具を何にするかで、試作を何度も重ねました。
始めは、硬質の木でリングの表面を叩いてみましたが金属と木では、やはり金属のほうが硬く表面に凹凸のある風合いをつけることができませんでした。金槌や、タガネという工具を使ったり、紙やすりを使ってもなかなか求める風合いが出なくて何日も思い通りの仕事ができず、苦しい時がありました。
そんな時たまたまアトリエに置いていた使い込んで古びた鉄が目に止まり、その上でリングを転がしてみたところ、リング表面に絶妙なシワのような風合いが生まれました。
何度も、繰り返し鉄の上でリングを転がし、もういいかな、と思うところからさらに風合いを重ね、このロチアというテクスチャが生まれました。
最初にテクスチャを完成させた時のリングには、愛着があり今でも手元に残してあります。
生み出すまでに試行錯誤した時間もたっぷりかかりましたが、テクスチャをつけるのにも職人の丁寧な手仕事が必要です。愛情と手間暇をかけ、身につける人が最初から愛着を持ってもらえるよう心を込めて1点ずつに加工を施します。
ロチアの風合いがご縁を繋いだお二人とのエピソード
![](https://ith-rings-blog.s3.amazonaws.com/production/uploads/blog_upload/7083/large_1e2d3218-7c61-43e6-953f-f2f691af9086.jpg)
ご遠方から表参道アトリエへいらしてくださったお二人のリングが完成したのは、2年半ほど前の2016年10月でした。
全てのリングデザインの中でも、槌目のリングやつや消し加工されたリングなど、いくつか気になるものがあった男性。ithに来てくださったきっかけは、このロチアというリングでした。
'ヴィンテージ感のある風合いが、どこにもなくて気に入っていた!'とご試着中に熱弁してくださったことをよく覚えています。指輪をつける習慣がなくて少し恥ずかしい気がするけど、これなら抵抗なく着けられそうと感じてくださったそうです。
女性は男性とお揃いにしたいというご要望が強く、テクスチャは男性と同じロチアを選びました。唯一、細身の幅がいいとご希望に合わせて、お仕立ての中で一番細い2ミリの幅で制作をすることにしました。
ご遠方にお住まいの二人でしたが、ロチアがご縁をつないだ思い出深いお客様でした。
お仕立てした時から、使い込んだ風合いがあるロチア。お二人が使い込んだ歴史が新たにリングに刻まれていると思うと、リングと再会して風合いを確かめてみたくなります。
お二人と共にリングがこれからの月日を一緒に過ごし、よい風合いを重ねてほしいと願っています。
つくり手 高橋亜結
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