こんにちは、つくり手の前堂です。
私たちithのつくり手が、工房でリアルな指輪づくりを学ぶ様子をレポートする《つくり手指輪制作ブログ》シリーズをお届けいたします。
(詳しくは イントロダクション記事 をご覧ください)
前回は《アニス》の彫り模様について指輪制作の過程をご紹介しましたが、今回は指輪のメンテナンスについて綴ります。
指輪の仕上げ直し(クリーニング)について職人の新居さんに教わりましたので、ぜひお付き合いください。
鏡面仕上げの経年変化
今回メンテナンスする指輪は、自身で制作した《ルーチェ》。
イタリア語の “光” という意味の名前にちなんで、鏡のように艶やかな “鏡面仕上げ” で制作したものです。
まずメンテナンスをする前に、今の指輪の状態を細かく見てみましょう。
1年半ほど着用し、経年変化した姿です。
毎日身につける中で細かい傷が重なることで、どんな指輪でも “経年変化” をします。
プラチナやゴールドといった地金も、傷がつかないほどの硬さはありません。お守りのように毎日身につけていた私の指輪にも、小傷がたくさんついています。
例えば鏡面仕上げの指輪は、小傷が増えていくことで全体的に光沢を失い、曇ったような質感になります。ルーペで拡大した写真がこちらです。
細かく擦れたような傷が重なり、マット加工のようにも見えますね。
ithのお客様の指輪はマット加工や彫り模様のアレンジが施されていたり、石留め加工のあるもの・ないものなど、ひとつとして同じ指輪はありませんし、経年変化の状態も異なります。
職人の新居さんが、
「大きな傷はないか、留まっている石が欠けたり割れていないかどうか、指輪の状態を丁寧に確認した上で、どうすればより美しく仕上がるかを考えてメンテナンスしていくんだよ」
と教えてくれて、いざ「仕上げ直し」のメンテナンスのスタートです。
メンテナンスで大事にしていること
結婚指輪や婚約指輪は、この先のお客さまの人生にずっと寄り添い続けるものです。
そのため強度を保てるよう、なるべく指輪に負担をかけずにメンテナンスを行うことが重要となります。
強度を保つための “ヘラがけ”
最初の工程はヘラがけです。
表面の凹凸がなるべくなくなるよう、加工用のヘラを指輪の表面に押し付けながら、大きな傷や凹みのある部分を滑らかにしていきます。
(ヘラがけについて、詳しくはこちらをご覧ください)
傷による凹凸が多いまま研磨剤で磨いてしまうと、凹みに合わせて指輪の地金をたくさん削り指輪が薄くなってしまいます。ヘラがけを丁寧に行い凹凸をならすことで、地金を削る量を必要最低限にすることができます。
新品の制作よりも難しいところ
ヘラがけの後は、研磨剤を使って磨く工程です。新居さんにお手本を見せてもらいながら、磨きの工程において重要なことを教わりました。
新品の指輪制作時には、指輪を磨いてから最後に宝石を留めて完成させます。しかし、メンテナンスの場合はすでに指輪に宝石が留まっています。
高速で回転するフェルトに研磨剤をつけて磨くため、そのフェルトが宝石に当たらないよう注意が必要なのだそうです。
「特にカラーストーンの場合は、傷がついたり、摩擦熱によって石が割れてしまう可能性もある。お客様の大切な指輪だからこそ、指輪や宝石に負担がかからないようにメンテナンスするのも職人の大事な仕事なんだ」
と話してくれた新居さん。
今回私が磨く指輪は、アメシストを留めたもの。自分なりに意味を込めて石留めした指輪なので、愛着もたっぷりです。
石留めを避けることを意識し過ぎて磨きが甘くならないように、丁寧に磨き上げていきます。
“永く大切に着けられる指輪をお客様にお届けしたい”
これはithというブランドの根底にある大切な思いです。
だからこそ私たちつくり手は、お二人と一緒にオンリーワンのデザインを考え、そのデザインを職人が美しく作り上げ、ご依頼に応じて丁寧にメンテナンスしています。
実際にメンテナンスを経験することで、お客様と職人のそれぞれの立場から指輪について考える大切な時間になりました。
メンテナンス完了!
時間はかかりましたが、磨き直しが完了しましたので Before / After を見比べてみましょう。
▽ Before:メンテナンス前の状態
▽ After:鏡面に磨き上がった指輪
全然違いますね、心が弾むほどピカピカに仕上げ直すことができました!
自分自身でメンテナンスを施したことで、愛着もさらに増してきます。
今回ご紹介したのはメンテナンスのごく一部分なので、今後も少しずつ《つくり手指輪制作ブログ》でご紹介できたらと思っております。
メンテナンスに4週間ほどお時間をいただきますので、ご結婚式やフォトウェディングなど、メンテナンスが必要なイベント前には計画的にご相談ください。
是非、次回の記事も楽しみにお待ちいただければ嬉しいです。
つくり手 前堂