ithは、6月4日で9周年を迎えます。
今までアトリエを訪ねてくださったみなさん、仲間に支えられながら毎日を積み重ね、9周年を迎えることができました。ありがとうございます。
最近の出来事の中で、大きな変化は国外にithのアトリエができたことです。
海外事業のエキスパートが仲間に加わり、2022年11月にシンガポール、2023年4月には台湾アトリエがオープンし、さらに6月末には台湾に2つ目のアトリエもできるので、準備を進めているところです。
次々と海外にアトリエが増えましたが、最近まで正直、実感が湧いていませんでした。
アトリエの場所がいつもより離れていることや、つくり手と直接会う機会がほとんどなかったこと。自分がいなくても頼もしい仲間によって、オープンへ向けてどんどん準備が進んでいったことなどが身近に感じられていない理由でした。
でも最近は、つくり手との会話も増えて、自分の頭の中でアトリエや、そこにいるつくり手を想像する時には温度感や色が少しずつ出てきました。
どこにいても、ithのつくり手の思いは一緒で、お客さまに寄り添うことを理想にしていること、それを自分自身が表現することの大変さに悩んでいる姿を見て、みんな同じことを考えてくれてるんだな、と思えたからです。
‘一人一人違うお客さまに寄り添って、本当にいいと思える指輪をつくりたい’
とてもシンプルだけど、実際に行うのはとても難しい。
2014年にはじまった当時、とにかくやってみよう!という勢いのほかは何もなかった小さなith。9年の中で確実にブランドの核ができて、それをみんなで大きくしていくような感覚を持てたのは、人生の中でも本当に貴重な体験です。これからもっと‘寄り添う’ことを追求していけたら、やさしく、強いブランドになれる気がしています。
1ヶ月ほど前、ithができたばかりの頃のお客さまと再会する機会がありました。
お仕立てした結婚指輪が変形してしまい、修理のために9年ぶりにアトリエへお越しいただくことになったのです。
メールでお名前を見つけた瞬間に、アトリエの一番奥の部屋で並んで座っていた風景や、ご納品の日、指輪やお二人としばらく会えないと思って悲しくなって涙が出たことなどが、いっぺんに蘇ってきました。
デザインで覚えているのは、指のサイズが小さい女性のために、Allegro《アレグロ》という指輪の幅を極力細くしたことです。
ストレートの形の中央に1本のラインが入っていて、デザインを活かすにはある程度幅があったほうが良いけど、それだとしっくりこない。つくる側の意図も大切だけど、身に着ける人に合わせた提案をすることが良い指輪づくりなんだな、とこの制作を通じて気づくことができました。
やりとりの中で、数年でアトリエの数が増え、遠くにいってしまったような気持ちになったけど、吉祥寺のアトリエに行った時に、当時と変わらずゆったりとした雰囲気が流れていて指輪を選んだ時のことを思い出せた、とメッセージをいただきました。
それを読んだ時、これまでのithを肯定してもらえたように思えて、とてもほっとしました。私はいつでも、はじまった時のことを大事にしていて、変わらないことと変わっていくことの線引きをするのが自分の役割だと思っているのですが、‘間違ってないよ’、と言ってもらえたようで嬉しかったです。
修理が完了してお渡しする時には、お互い子供が生まれて母になったことを話したり、ショートカット姿と穏やかな雰囲気が変わらないなぁと思ったり。少しの時間だったけど、私にとっては、かけがえのない時間になりました。
来年はいよいよ10周年。
新しいithをお披露目できるように、実はもう10周年に向けて動き出しています。はじまりの頃を大切にしながら、これからまた1年、がんばります。
ith 高橋亜結