前編では、異業種から転職した三人のつくり手に仕事への想いをお聞きしましたが、後編では日々の業務をさらに深掘りし、そこから導く新たなチャレンジにも触れています。それは多くのお客様の幸せをかたちにするだけではなく、自身の成長を促し、ブランドのさらなる飛躍の原動力にもなっています。
お客様の想いをかたちにするための知識を身につける
―皆さんは異業種から転職されていますが、指輪制作の知識などを深めるために工夫したことはありますか?
板橋 僕は本当に不器用なので(笑)、研修期間中は作業中の職人の手元を動画で撮って、それを見て理解を深めました。あとは先輩に聞くことですね。つくり手同士で情報共有することでも多くのことが学べます。
庄形 前堂さんは、定期的に工房へ通っていますよね。
前堂 私は入社前から指輪を作る工程に興味があったので、今も工房で実際に手を動かしながら知識を得ています。とは言え、制作した指輪は商品としてのクオリティには到底及ばず…。自分で制作を経験するほど、ますます職人のすごさを痛感しますね。
庄形 私は名古屋勤務のため、吉祥寺の工房へなかなか行けないので、気になるブランドや制作者をSNSでチェックしたり、電車の中でもつい人の指輪を見ちゃったり(笑)。この仕事に携わるようになって、より指輪が好きになりました。
―苦労した点も教えてください。
板橋 僕は未だに、職人へお客様の細かいご要望を伝えることが難しいなと思っています。僕らつくり手とお客様の間では共通認識があっても、接客内容を全く知らない職人や生産スタッフたちが迷わず制作できるように指示を出さなくてはいけません。
庄形 確かに、お客様によって内容も全く違いますからね。私たちつくり手はお客様が希望される微妙なニュアンスは分かっているけど、それを職人に明確に伝えるのは一番難しいと私も思います。
前堂 それが指輪の仕上がりに影響するので、余計に慎重になりますよね。あとはお客様のご要望を実現することが物理的に不可能なとき、なぜできないのか、その理由を説明することも難しいなと思います。曖昧な説明ではお客様もご納得できず、解決に進めないし、私たちは同時に打開案も提案しなくてはならないので、指輪制作の知識がないとだめだなと思います。とても難しいことですが、ものづくりを知ることがithらしさなんですよね。
つくり手としての責任とモチベーションの源
―それだけ大きな責任が伴う中、それでも続けたくなる、つくり手の魅力は何でしょう?
板橋 お客様の一生に携わるという、確かにとても責任の重い仕事ではありますが、僕はそれでも寄り添いたいんですよね。たくさんのデザインの中からひとつが選ばれたときや、完成までが楽しみだと言われたときはとても嬉しいし、いいゴールに向かっているなと実感できるんです。
庄形 その指輪に込められる想いやそこに至った経緯も違うので、毎回、その瞬間に立ち会えるのがすごく楽しい。あとは自分に少しずつ知識が蓄えられ、それが活かされることも楽しみたいんですよね。
前堂 私は、指輪を選んだ時間がお客様の素敵な思い出となることはもちろんですが、その想いを込めたものを一生身に着けられるのは、最高なことだと思うんです。そのお手伝いができることが本当に嬉しいです。
板橋 これだけ幸せを感じられる仕事はないですよね。
――現在、皆さんは各アトリエの主任を務めていますが、役職が付いたことで仕事への向き合い方に変化はありましたか?
板橋 僕はお客様の事前カウンセリングを拝見して、どのつくり手なら話が合うかなと考えるようになりました。落ち着いているつくり手や明るいつくり手など、パーソナリティに個性や特徴があるので。マネジメントの楽しみというか、新しいやりがいにつながっています。
庄形 お客様もつくり手も楽しい時間になるように、ね。それがうまく嚙み合って、接客ブースから楽しそうな声が聞こえてくるとよかったって思いますよね。
前堂 今の私のやりがいは、後輩のつくり手が困ったときのサポートです。お客様とコミュニケーションがとれるのは、担当のつくり手だけです。後輩から相談を受けたときは、つくり手側の情報を頼りに、第三者としていかに客観的なアドバイスを送れるかが大事です。今は、そのことに頭をフル回転するようになりました。
庄形 私は以前だったら、みんなの言っていることを俯瞰してまとめる役割でしたが、今は自分の考えていることを相手に伝わるように言葉にしていこうと思うようになりました。そうすることで、相手から新しい回答が得られるし、また新しい何かが生まれることに気づいたんです。
お客様のため、ithのため、できることを模索し続ける
―今は海外にもアトリエがありますし、10周年の節目には神戸三宮アトリエがオープンしました。皆さんは勤務地の異動についてどう思っていますか?
板橋 僕は嫌ではないし、楽しみですね。
庄形 私は海外のアトリエに行きたいです(笑)。
板橋 僕は福岡が気になりますね。福岡天神アトリエには、九州エリアのお客様が来てくださるので、それだけ期待値は高いと思うけど、とてもやりがいがありそうだなと思います。
前堂 私は、強いていうなら、ひとつのビルで接客から制作まで完結できる吉祥寺。あとはカラーストーンに興味があるので、生産管理にも行ってみたい気持ちもあるし、ithを広く知ってもらえるような業務にも興味があります。個人的には、ithの中のさまざまな部署をつなぐ存在になりたいなと思っていて、それが何なのかをずっと模索しています。
庄形 私は、本社や工房と地理的な距離があることで生まれるギャップを何とかしたい。そのために何かできるかをずっと考えています。
板橋 今回、二人の話を聞いて、庄形さんは裏表のない熱い人だと思ったし、前堂さんはクールな印象だけど、実はとっても熱い人だと分かりました。こういう機会があってよかったです(笑)。
写真左:庄形さん[マネージャー兼 名古屋 栄アトリエ主任]
写真中央:前堂さん[サブマネージャー兼 銀座アトリエ主任]
写真右:板橋さん[サブマネージャー兼 新宿アトリエ主任]
【プロフィール】
板橋さん[サブマネージャー兼新宿アトリエ主任]
ithで自身の結婚指輪を作った際、担当のつくり手の寄り添う姿勢に感銘を受け、2019年につくり手として入社。柏アトリエなどでキャリアを積み、現在は新宿アトリエの主任兼サブマネージャーとして、接客をはじめ、アトリエの運営や後輩の指導などに携わる。
庄形さん[マネージャー兼栄アトリエ主任]
ithで結婚指輪を作った3カ月後、2020年につくり手として入社。業界未経験でありながら、持ち前の明るさとバイタリティーで多くのお客様に寄り添う。現在は栄アトリエの主任兼マネージャーとして、運営サポートや後輩の指導なども行う。
前堂さん[サブマネージャー兼銀座アトリエ主任]
舞台を中心に役者として活躍後、以前から興味のあったジュエリーの世界に転身したいと2020年にithに入社。現在は、銀座アトリエの主任として多くのお客様の指輪づくりをサポートする傍ら、吉祥寺の工房に通い、指輪制作の知識や技術を学ぶ。